これを読んでいるキミが18歳になったということは
弟のトウくんは16歳になったことと思います。
今 キミたち2人はどんな話をしているのかな。
好きなものは何ですか。
得意なことは何ですか。
部活は何をしていますか。
苦手だったブロッコリー 食べられるようになったかな。
将来の夢はフクロウのとまる枝になること。と言っていたキミ。
18歳のキミの なりたいものはなんですか。
小さい頃
兄弟2人で子犬のように転がり回っては
はしゃぎ過ぎてよくけんかをしていましたね。
大好きだったプラレール
大好きだった海のいきもの図鑑
大好きだった黄色い長靴
ズボンのポケットにいっぱい詰め込んだ石ころやドングリ
今 どこにあるのかな。
ママはね
時々 ため息が出ます。
片付けても 片付けても 次の日にはまた同じように散らかるこの部屋に。
「おっぱい」「ちんちん」「うんち」の言葉ひとつで
涙が出るほど大笑いできるその感性に。
ママは
いつもため息が出ます。
あぁ なんでこんなに愛おしい毎日があるのだろうと
ママはね いつも ため息が出るのです。
そして ママは知っています。
そう遠くない未来に
キミは 私と手を繋ぐのを恥ずかしがるようになり
隣を歩くのすら恥ずかしがるようになって
一緒に公園にお散歩、なんて
出来なくなる日がくることを。
そして
今ここで「ママ、ママ」と私を呼ぶキミは
いつか
私のことを「お袋」なんて呼ぶようになることも。
「ババア」なんて言ったら
ママ 部屋から出てこないから、覚えておくように。
「ママのごはん、せかいでいちばんおいしいね!」
と ほっぺたにご飯粒をつけて笑うキミは
いつか
ママのごはんより
友だちとのファミレスが楽しくて仕方なくなる日が来て
あなたの、その細い喉には
いつしか 立派な喉仏が現れて
つたない言葉を一生懸命話していたあなたの可愛い声を
私はいつか
忘れてしまうのでしょうね。
「ママ!!抱っこ!!」と
私のこの手をつかんで離さないあなたは
いつか
あなたにとって何よりも大切だと思える人の手を
優しく引いて歩く日がくる。
「ママは ぼくが絶対守るから。」
と言ってくれた その誰よりも優しい気持ちで
あなたの愛する大切な人を
どうか しっかり守ってあげてね。
あとちょっと
あとちょっと
汗っかきのキミの首にあせもの薬を塗るのも
キミの小さな歯の仕上げ磨きをするのも
「一緒にトレイきて」という
こわがりなキミのトイレについて行くのも
「ママきらい!!」と大泣きするキミを抱きしめてなだめるのも
ほんとうに
ほんとうに
あと ちょっと。
だからね
あとちょっと
あとちょっと
キミが 私をママと呼んでくれる間に
あとちょっと
あとちょっと
キミを たくさん、たくさん抱っこさせて。
恥ずかしがり屋で
マイペースで
ひょうきんもの。
ヒーローが好きだけど
誰かをやっつけるのは苦手で
やさしくて。
やさしくて。
やさしさのかたまりみたいな4歳のキミへ。
そして、18歳になったキミへ。
ママは あなたが大好きよ。
「お母さん」になっても
「お袋」になっても
「ババア」になっても
ずうっとね。
大好きだったストライダーのサドルの色も
お気に入りのヒーローの決めゼリフも
18歳のキミは 覚えていないかもしれません。
でも
わすれないで。
これだけは。
どうか どうか わすれないで。
ママは あなたが大好きよ。
あなたが何歳になろうと
あなたが何になろうと
あなたがどこで生きようとも
ずうっとね。