心臓の鼓動は目では見えません
私の鼓動はあなたには見えないでしょうし
あなたの鼓動を
私も目で見ることはできません
私があの子の鼓動を見ることができるのは
あの子がまだ私のお腹の中にいた あの時だけでした
エコーで映し出された
あの10ヶ月の間だけだったのです
ふわっ
ふわっ
と
蛍のように小さく瞬くその光を
私は10ヶ月間しか見ることはできなかったのです
あの子がうぶ声を上げたあの瞬間から
私はあの子の鼓動を目で見て確認することはできていません
その代わりに
嫌でも目で見て確認できる
日々の様々な雑多なものに
私はいつも惑わされ
とうの昔に見たあの光を
まるで無かったもののようにして過ごしています
でも
今日も変わらず
昨日と変わらず
当たり前のように
拍動している
弾んでいる
私の愛しいあの子の中を
止まらず 動く
変わらず 脈打つ
確認が できる
その奇跡のような一瞬が
あの子の中をずっと埋め尽くしているのです
病院のベッドの上
息を止めながら 祈りのぞいた 四角く黒いモニターの中
初めて見たあの拍動が
真っ暗な空に光るいちばん星のように
小さく 力強く光っていたあなたのはじまりが
今日もあの子の中にあり続けているのです
それが
なによりも嬉しくて
私のただでさえ緩くなった涙腺を
今もこうして優しく刺激します
ひっそり こっそりと
今日も変わらずに奇跡を重ねてくれているあの子に
私は涙を堪えて ありがとうしか言えないのです
今を刻むあの子の鼓動に
私は直接キスをすることはできないから
その代わりに
私は今日もあの子を抱きしめます
今日を生きている
今を生きている
愛おしいあの子の鼓動ごと
あの子の命ごと
私は あの子を抱きしめるのです